【体験談】ライターなのに日本語が話せないという思い込みで怒られた


グローバル社会と言われているものの、真に国際理解に至っていない日本の現状。ハーフやクォーターの「困った」を募集する本企画です。

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今回話を伺ったのは、日本とカナダのハーフであるNさん(23歳・女性)。彼女は日本で生まれ、日本で育ってきたため、日本語はネイティブです。大学時代は日本語学に関して研究してきたこともあり、突出した日本語運用能力を持っているため、現在は出版社で働いているそう。
しかし、アルバイト時代は図書館や本屋など、文学に携わるところで働いているわけではありませんでした。コンビニやケーキ屋など、大学生がよく働くような場所で接客業をしていたのだそう。遅くまで研究に明け暮れていたため、シフトの時間が合う場所を選んでこのような場で働くようになったと話します……

「私は小さい頃から、近所の大人の人に『すごく言葉が丁寧』『敬語の扱いがお上手』『大人っぽい話し方』と褒められてきました。幼稚園の頃から芥川龍之介あたりの短編を、周りに漢字を聞きながら読み、暗唱していました。小学生になってからはシリーズ物の長編小説を時間が許すかぎり読みふけっていましたね。この頃からすでに、好きな文章というものが存在していて、私の言葉は、本から吸収して紡がれていたものでした。昔から、人を敬う言葉というのが好きで、とても言葉に敏感だったと思います」

人に言葉を、さらには文章を高く評価されたNさんは、高校生になって、インターネット小説の存在を知ることになります。

「今までも人知れず小説は書いてきました。自分が自己満足で小説を書くと、Wordなどにダラダラと文章を書き綴るだけになってしまうのですが、インターネット小説なら本らしい作りになります。私は、誰かに見られるということは深く意識せず、小説らしい小説が書ける場だということで、小説投稿サイトにのめり込んでいきましたね。初めは自分が楽しむために始めたものだったのですが、次第に読者がどんどん増えていき、数万PVを誇るように。ジャンルのランキングでは、トップ10に入るようになりました。ファンからのファンレターも貰えるようになり、自分だけではなく、人のために小説を書くようになりました」

当時、学生がランクインすることはあまりなかったようです。この頃からNさんには文章能力が備わっていました。

しかし、大学生から始めたアルバイトで予想外の出来事が起こります……

「アルバイトの面接では、『日本語が話せるの?』とほとんど聞かれました。今この場に相対して、日本語で話しているのにおかしな話ですよね。日本でずっと生活してきたから、発音も日本人のそれです。面接官の手元にある履歴書も、そこそこ名の知れた大学の文学部に在籍していることが書かれています。日本語が話せなかったら、文学部に行くなんてなかなか難しいですよね。おかしなことを聞くなあ……といつも疑問に思っていました」

大学では日本語学に関して研究していると伝えると同時に、ずっと日本で生まれ育ってきたことを話すと、面接官も納得してくれたと言います。

おかげで、無事採用してもらうこともできました。

「しかし、お客さんからの偏見は多かったです。確かに、容姿は父親にてカナダ人らしかったのですが、そのために日本語が話せると思ってもらえず……。なにか重要な忘れ物をしたらしいお客様が、慌てて店に入ってきたときも、接客を私一人でしていたのですが、『日本語を話せる人はいないのか』という第一声を頂きました。そのため、『ハーフなので、話せますよ』と答えたのですが、『日本人を呼んでくれ』と。すごく違和感のあるお願いでしたが、慌てて冷静ではないのだろうと諦めて、他の店員を呼びにいきました。結局、その店員より私の方が事情を知っていたため、私の方が対応することになりましたし、なんだか釈然としない一件でしたね」

こうしたことがあってから、日本にある偏見に敏感になっていったと言います。

気にかけるようになって、レジ対応でも違和感を覚えるようになりました……

「私、レジってあまりお客さんが店員の話を聞いていないものだと思っていたんですね。『袋温めますか?』とか聞いても、『あ、箸つけて』みたいな的外れな返事が来て。こちらの質問を全く聞いていないような人がとても多かったんです。でも、他の日本人の店員さんを見ていると、ちゃんと言葉のキャッチボールができているんですよ。しばらくして留学生の人がアルバイトに入って来たので、その人の接客も様子を見させて頂いたのですが、ここでも私と似たような現象が見られました。さらに様子を見ていると、外国人が日本語で話していると、日本語を話していると受け取らず、どこか別の言語を話しているように受け取っていることに気がつきましたね。外国人だから日本語は話さないと思っているんですかね。日本のお店だというのに……」

留学生が入ってからしばらくして、お店に一本の電話が入りました。

店長が、なぜかNさんに代わらせたと言います。その理由というのが……

「研修中の人、というので、すぐに留学生の件だということがわかりました。店長は、あまりシフトに入らない留学生の人のことが頭から抜けていたのでしょうが、外国人の人の接客が気に食わなかったといって来たので、私に代わらせたようです。といっても、彼もとても笑顔で熱心に働いていたので、何が問題かさっぱりしませんでした。話を伺ってみると、挨拶をしないなどのクレームをつけて来ました。留学生の人は挨拶がしっかりしているし、私は接客に定評があったので、とても疑問だったのですが、一応角を立てないために謝罪を行いました」

このお客さんは、ただクレームを言いたかっただけなのか、電話に出たNさんについても説教を始めたと言います。

「なぜか唐突に、『日本語がよくわからないのだろうけれど、働いている以上ダメだよ』と言われたんです。意味がわからないし、怒りを感じてしまいました。しかし、お店の看板を背負っているため、強くいうこともできず。私は、『お客様、先ほどからお客様は私のことを外国人だとおっしゃっていますが、厳密には私はハーフです。日本で生まれ、日本で育ち、日本語を使って生活して来たため、日本語はネイティブそのものです。しかし、日本語がよくわからないと思われてしまうほど、ご不快に思われる表現を用いてしまい恐縮です』と、釈明とともに謝罪を行いました」

あまりに横柄な態度に怒りを感じたNさんは、謝罪した後も間髪入れずに話を続けたそうです……

「続いて、私は大学で日本語学の研究をしていましたし、この頃は兼業でライター業もしていたので、『現在ライターとしても活動しており、大学では日本語学を研究している身でございますので、今回の件に関して深く受け止めてまいります。ご指導のほどありがとうございます』などと返しました。そしたら、『えっ』という声とともに、電話を切られてしまったんですよね。お客様にとって衝撃的で、それでいて都合が悪い返しだったようです。非常に慌てふためいた様子が電話口から見て取れました。すっきりしたと同時に、ただ外国人という『立場が弱い』相手に対して、憂さ晴らしがしたかったのだろうと思うと、本当に人の嫌な一面を見てしまったと感じました」

筆者の知り合いにもハーフのライターたちがいます。彼らは業として扱っているくらいなので、一般の日本人より日本語の扱いと言えるのですが……。似たような経験をされた方が多いです。勝手なイメージで話せないと決めつけないでほしいですよね。
また、今回の話を通して、ミックスルーツだけでなく、外国人に対して、偏見で差別的な態度を取っている人がいることが明らかになりました。こういった行為は、恥ずべきことです。教育でも「日本人としてのアイデンティ」が言われていますが、もっと根底的なところから日本人としての自覚を持つ必要があると感じました。

(神崎なつめ/ライター)

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