【体験談】日本にいるから無関係…ではない。ハーグ条約で痛い目を見た経験

【体験談】日本にいるから無関係…ではない。ハーグ条約で痛い目を見た経験

グローバル社会と言われているものの、真に国際理解に至っていない日本の現状。ハーフやクォーターの「良かった」「困った」を募集する本企画です。

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今回話を伺ったのは、日本とベルギーのハーフTさん(27歳・女性)。ハーグ条約をあまり意識しない日本の国際結婚家庭は多い印象ですが、そのために大変な思いを経験されたとのこと。詳しく伺いました。

<!>ハーグ条約とは

ハーグ条約は、国境を越えた子どもの不法な連れ去りや留置(をめぐる紛争に対応するための国際的な枠組みとして、16歳未満の子どもを元の居住国に返還するための手続や国境を越えた親子の面会交流の実現のための締約国間の協力等について定めた条約であり、1980年に採択されました。
日本では、両親が離婚した場合に片親のみの親権が正式なものとして認められていますが、多くの国では「共同親権」の制度になるため、ハーグ条約に基づき両者の承認が必要になるため注意が必要です。国際結婚家庭のみなず、日本人同士の婚姻であっても、ハーグ条約の対象になります。

詳しくは外務省のホームページをご確認ください。

「ハーフの子供を持つご両親へ、ハーグ条約を甘く見ない方が良いです。ヨーロッパでは日本のように、両親の離婚や婚外子による片親のみの親権という正式なものはありません。離婚率や未婚で子供を持つことが多いので、子供の親の両方に養育権があります。母親か父親の一方のみが子供を育てる状況になっても、親は子供の養育費を工面する義務と、どちらかに住んでいる場合でも成人になるまで育児をするのは当たり前です。
しかし、ハーフとなると両親の出身国が遠い異国になるので、離婚後どちらかの国に住むことになります。これも、子供にとって両親が決めるのですが、双方の許可がなければ、片親がハーフの子供を(元々生活していた国)居住地から連れ出すことができません」

つまり、両者の承認が得られなければ、ハーフの子どもを現在いる国ではない異国に連れて行くことができません。DV等の証明が得られればその限りではないと解釈できますが、十分な調査が得られず、両者の承認が必要となってしまうケースもあるとか……。

「なぜ、子供を守るための条約でなぜこのようなことになってしまうのか。これがいわゆる『ハーグ条約』の一部の解釈で、仮に日本人の母親(元妻)が離婚後、子供を日本で育てたいという事態になっても、元夫(外国人の父親)の国では両方の親権があるとなると、国際法なので両者に親権があるとして、父親の意思も守られてしまうと考えられます。
自分の国から出て生活することを承諾しなければ、母親とその子供は外国で生活を余儀なくされます」

Tさんは、このハーグ条約で辛い思いをされたんでしたよね。詳しく伺ってもよろしいでしょうか?

「ここで痛感した問題についてお話ししますね。私の両親が離別した時に、日本人の母親は日本での生活を強く望みました。外国語が堪能でない事と、海外で仕事をしたことがないことが今後シングルマザーとして生活する上で不利だと考えていたからです。
しかし、父親は子供と会えなくなるのは辛いので、日本での生活を許可しませんでした。外国人である父親が自分の国で私と一緒に生活することも無論提案してくれましたが、母親が断固として娘と離れたくないと主張したため、離婚後は母親と住むことが決まっていました。つまり、英語が堪能でなく、シングルマザーとして圧倒的に不利な状態で私は育てられるということになります。幸い、私はそれなりに英語が話せましたが……」

子どもを現在の国から連れ去ることができないため、当然、日本人の母親が異国に住んでいる状態で子どもを引き取ることになると、その母親は異国で暮らす必要がでできます。
もし、ハーフの子が日本で暮らしたい意思があったり、いずれ日本に住むつもりで日本の言語や文化を集中的に学んでいた場合に、ハーグ条約によって大きな制約ができてしまうと言えそうです。

「ほとんどの外国の場合、両親が離婚しても、その子供は自由にどちらの親とも会う権利があります。外国に住んでしまうと、なかなか親に会うことができなくなりますよね。国際離婚をする場合は要注意です。
一番辛いのはハーフである子供ですが、離別状況が親にとって複雑なると子供がその問題に巻き込まれてしまいます。うちの場合は母親に仕事がなかったので、父親は私だけの養育費を払い、生活費は母親が責任を持たなければいけませんでした」

親権が両方にあることから、ハーフの子どもは一般的に引き取っていない親からの援助が得られ、生活はどうにかなると言えそうですね。しかし、働くことができない親については、どうなってしまうのでしょうか……。

「母は自分だけ日本に帰国する選択もあったと言います。しかし一人娘を手放すことは考えられませんでした。親なのですから、その先の苦労よりも子供を取るのは当然と言えるでしょう。今でこそ、女性1人で外国で勉強したり、生活したりできる時代ではありますが、日本での生活に比べたら計り知れないほど大変です。ましてや外国人シングルマザーとして外国で生活することすらどのような状況か想像するのも難しいと思います。当然、私が働くわけにはいきませんし……。
仮に外国人である父親が日本での生活を許可してくれたら、父親との交流はなく、最悪は父親がいないとみなしていたかもしれません。それくらい、私にとって父親は、関心のない対象ではありました。しかし、父親からすれば、このハーグ条約によって、そんな私の意志とは裏腹に会うことができたというわけですね」

住んでいた馴染みのある国から親の都合で引き離し、片親と会えなくなってしまうなどの不幸がないよう、子どもを守るためのハーグ条約だと感じてしまいますが……。承認という意思決定が親にあるため、親の気持ちが守られ、結果的に子どもが辛い思いや嫌な思いをしてしまうこともありそうですね。
日本では片親が親権を持つことができるため、ハーグ条約そのものを忘れてしまうこともあるかもしれませんが、ほとんどの国では共同親権であることを踏まえ、この条約のことを忘れないようにした方が良いかもしれません。

(青木一真/ライター)

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