グローバル社会と言われているものの、真に国際理解に至っていない日本の現状。ハーフやクォーターの「困った」を募集する本企画です。
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今回話を伺ったのは、日本とアメリカのハーフであるMさん(21歳・男性)。彼の母語は英語と日本語です。顔立ちはアメリカ人の父親に似たため、日本人に見られない容姿をしています。その上、193㎝という高身長であるため、日本ではどこに行っても目立ってしまうそう……。
生まれた頃から大きな子どもで、小学校5年生の時点で、身長は165㎝の母親を追い越してしまっていたそうです。あまりに発達が早いため、学校生活では困った経験が多かったと語ります。
「小学校4年生で母より靴が大きくなりました。卒業した時には身長が175㎝もあったので、小学生用の体育着や上履きがなく、取り寄せになっていましたね」
小学生の頃は大きな体でいじめに繋がる経験はしなかったそうです。しかし、中学校入学した途端、高い身長が原因で、真っ先に標的になってしまいます……
「中学校の入学式の日、新入生は名前順に並んで椅子に座らされ、一人一人順番に名前を呼ばれました。呼ばれた生徒は「ハイ」と返事して起立することになっていましたね。私も列の中ほどに座って、自分の番を待っていました。
しかし、隣の生徒が呼ばれて立ち上がり、自分の名まえが呼ばれて立ち上がった時です。後ろの方の保護者が突然、一斉に笑い出したんです。理由がわからず、『えっ?』と混乱してしまいました。
そんな中、次の生徒が起立すると笑い声は余計大きくなりました。帰宅してから母に尋ねると『隣の子と比べると、極端にでっかいから身長差にビックリしたみたい。凸凹コンビだって言われたよ』と答えられて、背の高いことを気にしていなかった私は『なーんだ』と思いました。ところが隣で先に名前を呼ばれたAは『コイツのせいで自分まで笑われた!』と恥ずかしく思ったようで、そこから嫌がらせが始まったのです……」
些細なことがきっかけで嫌がらせが始まってしまったMさん。自己紹介を終えた次の日から生活は一変してしまいます。
「Aが私に『ガイジンがなんでここにいるんだよ?』と絡んできました。『名前も顔も日本人じゃないから、ガイジンだろう』というのです。
私は小さい頃から『ガイジン』と言われるのが嫌いで、このときも『俺は日本人だ。母が日本人で日本国籍だから』と答えました。これまでは、それで収まっていたのに、このときのAはしつこくて『どう見たって日本人に見えないから、お前は日本人じゃない』と更に絡んできました。Aが絡んでいるのを見て、Aと同じ小学校だった他の生徒も『Aの言う通りだ』『日本人だという証拠を見せて見ろ』と一緒になってからかい始めました」
口下手なのと大勢にからかわれたことでMさんはカッとなって立ち上がってしまったと言います。
「当時のAは背が低く、私とは頭二つくらいの差がありました。立ち上がった私にビビッたAは、それでも喧嘩慣れしていたのか、すぐ立ち上がったかと思うと、椅子を持ち上げてこちらに殴りかかるかのように脅してきました。
恥ずかしながら喧嘩の経験がない私は『やられる!』と思って、咄嗟に同じように椅子を手に振り上げました。相手が椅子で攻撃するなら、同じく椅子を持たないと不利だとしか考えていませんでした。Aが椅子で殴ってくるのを、私が椅子で受け止めるのを何度か繰り返していたところ、たまたま廊下を通りかかった、幼馴染B先輩が見付けました。
B先輩は慌てて教室に駆け込んできて、私を羽交い絞めにして引き離し、『バカ、やめろ!なぐるな!』とAを叱りつけて止めてくれたので、大事には至りませんでしたね」
しかし、これが原因でMさんとAくんは放課後に職員室へ呼び出されてしまいました。
「放課後、私とAは職員室で二人とも叱られました。Aは『暴力はいけない、椅子を使うのは、大事故になりかねないことだった』でしたが、私にはその上『体格が大きい分、相手のダメージが大きくなるから、絶対ダメ』と言われたのです。『殴ってきたのはAで、私は防御しただけ』と説明しても、『解っているけれど、お前の方が大きいのは事実だから』と言われてしまい、とても理不尽な気持ちになりました。
このことがきっかけで、Aからはつまらない理由で、その後もしつこく絡まれました。Aは運動が得意で、からかう言葉も豊富なタイプで、トロい私は良い標的だったのでしょう。私はAとは距離をとり、なるべく関わらないようにするしかできませんでした。部活で知り合ったCと友人になったおかげで、Aのことばかりを気にしないで済むようになりました」
しかし、ハーフ特有の「汗」が原因で、夏になるとクラス全員からのシカトを受けるようになったそうです。
「中学1年生の夏になると、今度は体臭イジメが始まりました。私は父に似て、緊張すると脇などに汗をたくさんかく体質で、汗が乾くとスパイスのような臭いが出ることがありました。すると『Mが臭い!』と騒がれるのです。体育の後にも『何のニオイだ?』などと、聞こえよがしに言われたりもしました。
そのうち、女子生徒も一緒になって陰でヒソヒソしたり、クスクス笑われたりすることが起き始めました。毎日、シャワーや入浴をして、下着やカッターシャツも取り替えて、清潔に気を付けても収まりませんでした。何かとシカトするような態度を取られることは精神的にキツかったです……」
当時のクラスの担任はいじめに敏感な人だったため、幸いすぐに対策を取ってもらえたようです。その対策というのが……
「副担任の先生に1時間ごとに私のトナリに立ってもらって、実際に『体臭が出るか?』をチェックしてもらったのです。給食を食べた後、少し汗をかくようだと分かったので、担任は母に『昼休みに保健室で汗を拭いて、体育着に着替えて過ごさせるようにします。いじめ予防のためにご協力願えませんか?』と電話をしてくれました。母は体育着とタオルを毎日持たせてくれ、授業参観の時には同級生の保護者にも午後は一人だけ体育着で過ごすことを説明したりもしました。これで体臭イジメは一旦収まったように見えました。けれど、私の目につかなくなっただけで、陰口は続いていたことは、後になって分かりました……」
なくなったかのように思えたいじめは、あることをきっかけとして再び姿を現します。しかし、そこへ現れたのは……〜後編〜に続きます。
(神崎なつめ/ライター)
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